アキレス腱付着部症
今回は足の痛み、特に「踵の痛み」についての説明です。
マラソンなどをするようになって踵が痛くなった人いませんか?
普通に歩けているからアキレス腱が切れているわけではないだろうけど・・・という方はこの病気かもしれません。
では解説していきましょう。
アキレス腱付着部症
解剖
まずはアキレス腱の解剖から説明しましょう。
皆さんご存知とは思いますが、復習程度に。
まず、腱とは何か?腱とは筋肉と骨の間を繋げる繊維組織になります。
アキレス腱は「ヒラメ筋と腓腹筋の合同腱であり、踵骨につくの腱」になります。
そのアキレス腱は人体の中で最大の腱組織になります。日常生活でも2000〜7000Nもの力がかかります。
ランニング時には体重の6〜10倍程度の力がかかるとも言われています。
この牽引力により引き起こされる病気が付着部症になります。
病因、病態
アキレス腱の付着部はその力に耐えられるよう、普通の腱とは異なり、繊維軟骨組織を中心とした4層構造を呈しています。
この繊維軟骨には基本的に血管や神経が存在しないため、損傷した場合の修復能が乏しいという特徴があります。
ランニングやジャンプ時に起こるアキレス腱への強い牽引力にたいし、微細な傷が踵骨付着部に発生すると完全に治ることが難しく、治る前にまた微細な損傷を繰り返すことで慢性化、症状の出現に至ると考えられています。
〜病因〜
症状はやはりアキレス腱付着部の痛み、発赤(赤くなる)、腫脹(腫れること)です。
とくに足関節背屈時(足首を上に曲げる)に痛みを訴えることが多いです。
初期であれば運動を継続しているうちに痛みは軽減されるますが、進行期になると歩行はおろか足の接地でさえも困難となるほどの痛みになります。
診断
触診で圧痛点を注意深く確認するだけでも病気の推測は可能です。
アキレス腱は踵骨隆起のやや外側に付着しているため、同部位に圧痛を認めることが多いです。(下図黄色)
画像所見
X線:heel cordと呼ばれるアキレス腱付着部軟骨下骨領域の硬化像や付着部からアキレス 腱の走行に沿った骨棘(heel spur)の形成が認められることがあります。
が、これは全例で見られるわけではなく、見つかればラッキー位のものです。
MRI:T2強調像で付着部に損傷を示す高信号像とその下層に骨髄浮腫を示す高信号像が認められます。これは大半の症例で見ることができるため、実質、MRIが確定診断に有用と思います。
また、超音波検査でも血流が増えていることが確認できることもあり、診断に有用との話もあります。
治療
では治療はどうするのか?
他の疾患と変わらず、この病気も保存治療と手術治療があります。
保存治療
当然、手術治療ではなく保存治療が第一選択となります。
実際、保存治療で70〜90%程度の患者に効果があるという報告が多いです。
安静療法
Overuseが要因であるため、まずは安静を含めたトレーニング内容の再検討、修正および変更を行う必要があります。
短期間であればギプスなどを用いた固定も効果的です。
また運動をしていない人でも靴が合わないことで症状が出る人もいるため、靴の変更や足底板などを使用することもあります。
薬物療法で基本となるのは消炎鎮痛薬です。いわゆる痛み止めの事です。
主にNSAIDs(ロキソニン、セレコックス、ボルタレン、ロルカムなど)という薬を使用します。
また湿布やゼリーなどの外用消炎鎮痛薬も大いに効果が期待できます。
ストレッチ療法
下腿三頭筋(腓腹筋とヒラメ筋)の柔軟性が落ちるとアキレス腱の緊張が高くなるため、ストレッチはかなり有効です。
階段、段差につま先だけを乗せて体重をかけることで下腿を伸ばすことができます。
注射療法
腱鞘炎などの時には局所麻酔+ステロイドを注射することがあります。
注射をすると炎症が治まるため、痛みや腫れが高確率で改善することが予想されます。
しかし、アキレス腱付着部症の場合は基本的に行いません。
ステロイドの性質上、腱そのものが脆くなる可能性があります。アキレス腱の場合は腱にかかる力が強いため、他の腱に比べて脆くなった時に腱が切れる可能性が高いためです。
手術治療
保存治療を3~6ヵ月継続しても効果が乏しい場合には手術治療を考える必要があります。
手術方法としては骨棘を含めたアキレス腱の変性箇所の切除、デブリドマン(トリミングのようなもの)を行います。
ただ、切除範囲が50%を超える場合には付着部の再建術を行う必要があります。
以上がアキレス腱付着部症の説明になります。
健康のためにマラソンをされる方も多いですが、走り始めに踵が痛くなるようなら走るのを一旦やめて整形外科を受診することをお勧めします。
ではでは!!