整形外科医の勉強日誌

若手整形外科医が勉強したことや日々思ったことを徒然に書いてます。ついでに誰かの為になれば幸いです。

上腕二頭筋腱長頭腱鞘炎〜肩関節周囲炎シリーズ〜

今回も肩痛について説明しましょう。

今回は特に上腕二頭筋腱長頭の炎症について説明します。

あまり馴染みのない病気と思う方が多いと思いますが、普段外来をしているとわりと見かける疾患です。

では解説していきましょう。

上腕二頭筋腱長頭腱鞘炎

病態

上腕二頭筋とはいわゆる「力こぶ」の筋肉ことを言います。

二頭筋という名前の通り、停止部が二つあり、烏口突起に付着する上腕二頭筋短頭と肩甲骨関節窩上縁に着く上腕二頭筋腱長頭に分けられます。

このうち上腕二頭筋長頭腱は上図のように結節間溝というところを通ります。

上腕二頭筋長頭腱自体に変性が起こったときや結節間溝に骨増生(骨の棘ができたり)や骨粗造化(表面がざらつく)が生じて上腕二頭筋長頭腱に機械的刺激が加わった時腱やその腱鞘に炎症を起こす病気のことです。

症状

肩の不快感肩痛(特に前方)肩関節外旋制限でよく見られる症状です。

さらに発症初期には上腕から前腕にかけての放散痛が出ることがあります。

またこの病気を強く疑う症状は結節間溝部に著名な圧痛を認めます。

診断

この疾患はレントゲンを撮っても特に異常所見がないことが多いです。

関節造影像で腱鞘の不規則像、欠損像などが見られることもあるが確定診断にはなりません。

基本は上記でも書いているように結節間溝部の圧痛を見ることが重要です。

さらに他覚的な所見として

speed test:患者に前腕を回外、肘を伸展したまま上肢を前方挙上させ、前腕部に抵抗を加えると結節間溝部の疼痛が増強すれば陽性。

Yergason test:患者に肘を屈曲、前腕を回外させる際に前腕部に抵抗を加えると結節間溝部の疹痛が増強すれば陽性

以上が主な診断方法になりますが、さらにMRIで結節間溝部に水腫の貯留を認めたり、上腕二頭筋腱の輝度変化があればよりはっきりします。 

治療 

保存加療

ほとんどの場合、保存治療で改善します。

薬物療法

炎症がなくなれば症状もなくなるため、消炎鎮痛薬を使用する事が基本の治療となります。また安静にすると炎症は改善するため、安静も必要となります。

消炎鎮痛薬というのはいわゆる痛み止めの事で、主にNSAIDs(ロキソニン、セレコックス、ボルタレンロルカムなど)という薬を使用します。

また湿布などの外用消炎鎮痛薬も大いに効果が期待できます。

ただ、湿布は紫外線に当たると火傷したように皮膚がかぶれる(光線過敏症)となることが多いため、夏場は肩に貼ることはあまり望ましくないです。

ロキソニンテープはあまり光線過敏になりにくいとの報告もありますが、それを使用していても私は日光に当たらないようにする方が安全だと考えます。

その場合はスミルスチックやボルタレンゲルの使用をお勧めします。

注射療法

それでも良くならない場合は結節間溝に副腎皮質ステロイド剤+局所麻酔を注射します。

手術加療

手術療法は保存療法に抵抗し運動制限の強いときに行うことがありますが、ほとんど行うことはないです。

方法としては

●Lipmann法

関節外で長頭腱を切離して、その断端を結節間溝に縫合する方法

●DePalma法

腱の末梢断端を烏口突起の上腕二頭筋短頭腱起始部に縫合する方法

●Hit- chcock法

結節間溝の底部をノミで外方から内方に向かって薄く切り目を入れて持ち上げて骨弁を作り、この骨弁下に長頭腱を入れて骨, 骨膜ともに縫合する方法

などが挙げられます。

これらは上腕二頭筋腱長頭が切れた際の修復方法でもあります。

私が実際に経験したのは上腕二頭筋腱長頭切断修復に行ったLipmann法くらいで、この病気で本当に手術が必要な人はいないと思います。

 

以上が上腕二頭筋腱長頭腱鞘炎の説明になります。

ではでは!!

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