椎体骨折 治療について〜手術〜
今回は腰椎椎体骨折の手術加療について説明しましょう。
手術加療
保存治療の記事でも説明しているように椎体骨折の保存治療での骨がつかない確率は30%程度あります。また神経障害の確率も文献によって差はありますが3%程度認められます。
下の写真は骨がついていないレントゲンになります。左が座った状態の写真、右が寝た状態での写真になります。骨がついていない所見をCleftまたAlligator signと言われます。
十分な保存加療を行っても骨がつかず、痛みが残存している・神経症状が出ている場合は手術の適応となります。
適応
実はこの「十分な保存加療」というのが施設によって見解が分かれているため、実際には手術の適応は個々の施設によって異なるというのが現状です。そのため、ここに書いていることは私個人の見解と考えて下さい。
私は以下の項目が手術の適応と考えています。
・4〜6週間の保存加療を行っても痛みが強い場合。(Visual Analogue Scale 50以上)
・骨癒合が得られにくい合併症がある
骨癒合が得られにくい合併症とはステロイド内服の既往、Parkinson病、他椎体骨折の既往(特に隣接椎体や2つ以上すでに折れている場合)、ASH(強直性脊椎骨増殖症)、Split型の骨折(椎体が前後に分かれている、真ん中が極端に凹むような形の骨折)等です。
もちろん上記の条件があっても骨癒合が得られる可能性は十二分にあります。が、2週間経って骨がつきにくそうであれば、通常の4週よりも早期に保存加療から手術加療へ移行する必要があります。
注)Visual Analogue Scaleは痛みの数値です。0が全く痛くない、100が死ぬほど痛いです。
術式
手術方法は大きく分けて2つに分けられます。BKPまたは椎体固定術の2つです。
個別に説明していきましょう。
Balloon Kyphoplasty(BKP)
経皮的後弯矯正術とも言われます。
この手術は潰れた椎体に袋を入れ、それを膨らませることで椎体を持ち上げ、それを支えるようにセメントを挿入する方法です。
特徴はなんと言っても「傷が小さい」事と「手術時間が短い」事です。さらに追加すると「潰れた椎体を整復できる」(完全に元には戻せません)、「椎体の不安定性を即時に改善できる」事です。
傷は1cm程度のものが2つで、手術時間は30〜40分で終わります。傷が小さいため、術後の創部痛がほとんどなく、即座に椎体の不安定性が解消されるため、翌日には歩けるようになります。
凄く良い治療ではありますが、一方で適応がかなり厳しくなっています。
- 原発性骨粗鬆症による1椎体の急性期脊椎圧迫骨折または転移性椎体腫瘍
- 第10胸椎〜第5腰椎の椎体(術者が死体での訓練トレーニングを積めばこれに限らない)
- 十分な保存加療によっても疼痛が改善されない症例(発症4-6週以降)
- Xp、CTにてCleft形成を認める
- 椎体後壁骨折がない
上記が基本となります。ただ、実際は骨粗鬆症の患者で5の条件を満たす事の方が少ないと感じています。そのため、多少後壁骨折があっても行われているのが実情です。
術後の成績も
- 疼痛:Visual Analog Scale(VAS) 術前76⇨術後19
- 椎体の潰れ:術前54%⇨術後平均77%
”金村在哲ら:バルーン椎体形成術による瘍痛対策、骨粗霧症治療 voL12 no.3 181−186、2013”
とかなり良好な成績が得られます。
ただし、やはり合併症もあります。以下のものが代表的なものになります。
椎体外へのセメント漏出 10%
セメントを無理やり注入したり、椎体の辺縁に骨折線があると椎体の外にセメントが漏れることがあります。特に椎体後壁の骨折があると脊柱管にセメントが漏れるリスクがあり、脊柱管には脊髄や馬尾神経が通っているため、神経症状が出る危険があります。
新規の隣接椎体骨折 10〜20%
元々、骨が弱い事が原因で骨折しています。その隣の骨も弱いため、セメントを入れすぎたりすると隣の骨がセメントに負けて骨折する可能性があります。
椎体固定術
基本戦略は以下の図のようになります。
つまり、BKPでは対応できない症例に対し、行う術式となります。
Posterior Vertebrat Column Resection
背中側から椎体摘出後に人工椎体(ケージ)を用いて脊柱を再建する術式です。変形を最も矯正できる反面、侵襲も大変大きく、輸血が必要となります。また人工椎体を挿入する際に神経を損傷(または意図的に切断する必要がある)可能性があります。
前方固定術
この術式は実は古くから行われていました。
しかし、横隔膜を切開する胸腔外アプローチまたは胸腔内アプローチは高齢者に対する手術侵襲度が高いこと、手術自体の難易度ともに高いために敬遠され、それが上記に上げるような後方手術(背中からの手術)の発展へとつながった経緯があります。
しかし、最近はExpandableケージを用いた新しい手術手技が開発され、後方手術よりも低侵襲に前方手術が施行できるようになり再び見直され始めています。ただ、それでもやはり術者の高い技量が必要であることは変わりなく、たまに医療事故などのニュースを見ることはあります。
固定術はアプローチの違いや侵襲が大きいこともあり、合併症も多岐に渡ります。
最も起こりうる合併症はもちろん出血、感染ですが、さらに一般的なものは固定のために挿入したScrewが緩むことです。元々弱い骨にScrewを打つのですから固定力はそれほど強いものではありません。(砂場にネジを打ち込むようなもの)
またScrewの向き、長さを間違えると椎体の前にある大動脈を損傷する可能性や脊柱管内にScrewが入ってしまった場合は神経症状が出る可能性もあります。
合併症なども考えるとやはりしっかりとした保存加療を行い、手術が必要とならないようにすることが最も大事だと考えます。
以上が手術加療の説明になります。
今後は腰痛疾患以外も上げていければと思います。
ではでは!!!
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