腱板炎及び肩峰下滑液包炎〜肩関節周囲炎シリーズ〜
今回は腱板炎及び肩峰下滑液包炎について説明しましょう。
肩関節周囲炎の中の一つであり、かつ最も代表的なものになります。
腱板炎と肩峰下滑液包炎
症状
主な症状は肩の怠さ、違和感、動かした時の痛み、夜間痛(それによる不眠)などが多いです。
また肩関節の運動制限が出ることもあります。
これは腱板断裂や他の肩関節周囲炎にもよく似た症状のため、鑑別が必要となります。
特徴的な症状としては有痛孤(painful arc:上肢をゆっくり挙上してゆくと80度~120度で痛みが出るが、その前後では痛みが消える徴候)が挙げられます。
病態
肩関節は五十肩の記事で説明した関節包の周囲を腱板という筋肉の腱が覆うような構造になっている。下図のように肩関節の前方を肩甲下筋、上側に棘上筋・一部棘下筋、後方を棘下筋・小円筋によって包まれています。
腱板炎とは腱板が加齢や使いすぎによる血行障害などにより退行変性が起こった状態で軽微な外傷などの刺激が加わることで炎症を引き起こします。主に棘上筋に起こります。(腱板が切れているわけではない)
肩峰下滑液包炎は腱板炎に続いて起こります。これは腱板炎のため腱板の機能が低下し、上腕骨頭の肩甲骨関節窩への固定力が弱まり、その結果、上腕骨の大結節が鳥口肩峰アーチに衝突しやすくなり、その間にある肩峰下滑液包にも充血・ 浮腫などの炎症を発生するためです。
下図の赤い線が烏口肩峰アーチであり、オレンジの楕円のあたりに肩峰下滑液包があります。
診断
画像検査(レントゲン、CT、MRI)などでは明らかな異常所見が認められないことが特徴である。
そこで鑑別するための補助診断としてノボカインテストが用いられます。これは肩峰下滑液包内に局所麻酔剤を注入して肩の挙上が可能になるか否かを調べるテストであり、これが陽性すなわち挙上が可能になれば本症が強く疑われます。
完全に診断をするとなると肩峰下滑液包内の関節鏡視は最も診断に有効です。棘上筋腱滑液包面の不整(滑らかでない)およびfibrillation(毛羽立っている)が著明に認められることが多い。しかし、関節鏡を行うには全身麻酔を行う必要があるため、わざわざ診断のためだけに行うことはありません。
治療
保存加療
安静加療:三角巾固定などで肩を休める。
薬物加療:NSAIDs(ロキソニン、セレコックス、ボルタレン、ロルカムなど)の内服
肩関節注射:肩峰下滑液包内へのステロイド+局所麻酔剤の混合液の注射(ただし、糖尿病のある患者には私は使用しません。)。またはヒアルロン酸(下図)の注入になります。
基本的には上記の3つを併用し、治療を行います。それによりほとんどは保存加療で治ります。
慢性期(3ヶ月以上続く)場合には上記に加えて温熱療法や運動療法を加えることがあります。
手術療法
保存療法に抵抗する症例に対しては手術を行うことがあります。
手術では棘上筋の表面を蒸散して綺麗にしたり、上の写真の烏口肩峰アーチを作っている烏口肩峰靭帯が硬くなっているところを切除することが多いです。
しかし、実際には痛みが続いているため、原因精査目的に手術を行うことが多い印象です。
以上が腱板炎及び肩峰下滑液包炎の説明となります。
ではでは!!
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