腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアの手術のリスク、合併症
手術のリスク
腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアに限らず、手術には合併症の可能性があります。
某ドラマで「絶対失敗しません!」と言っている医師がいましたが、実際にそんな事を言う医師がいたらその人は信用しない方がいいです。
それよりも怖いくらいリスクを説明してくれる医師の方が信用できます。
では腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアの手術の合併症はどういったものがあるのか。
- 感染
- 出血
- 神経・血管損傷
- 硬膜外血腫
- 硬膜損傷
- 深部静脈血栓症
感染
脊柱管狭窄症に限らず、どんな手術でも感染のリスクはあります。整形外科では特に皮膚常在菌(黄色ブドウ球菌や連鎖球菌)の可能性があるため、術前からそれをターゲットにした抗生剤を投与します。
しかし、それでも術後感染を起こすことはあります。術後1〜2週での発熱や創部の腫脹・発赤・熱感があれば感染を疑います。感染していると傷が閉じないことに加えて、最悪髄膜炎などの可能性もあるため、早期に全身麻酔下で再手術を行い、しっかり洗浄する必要があります。
頻度としては1.1%
出血
腰部脊柱管狭窄症の手術では皮膚を切ることに加えて、少し骨を削る必要があります。皮下組織や筋肉からの出血はバイポーラと呼ばれる機械で出血部位を文字通り焼くことで止血し、骨からじわじわ出るものは骨蝋という粘土のようなもので骨の断端を塗ることで止血します。
実際、手術での出血量は10ml未満の事が多いです。
神経、血管損傷
手術では黄色靭帯を切除する際に神経の近くを操作する事になります。また長期に渡って神経が圧迫されているとその神経は周囲の組織と癒着していることがあり、神経損傷のリスクは0にすることは難しいです。しかし、そうならないように顕微鏡や内視鏡で小さいものを大きく見ることその癒着を慎重に剥がし神経損傷のリスクを極限まで減らしているのが現状です。
血管損傷は固定術を行う際に注意する必要があります。椎体(背骨)の前には大動脈や腸骨動脈といった大血管があるため、Screwが椎体の前まで出てしまうと血管損傷のリスクがあります。しかし、私は実際には見たことないです。
硬膜外血腫
これは先ほどの出血にも関わる合併症です。黄色靭帯などを切除してスペースを作ることで神経の圧迫を取りますが、この「スペースを作る」ことが問題となります。
出血するとやはり、狭いところよりも空間が大きいところに血液は溜まります。必ず血を外に出す管(ドレーン)を除圧によりできたスペースに入れておきますが、その管が詰まった場合にはスペースに血液が溜まり、その血液が神経を圧迫してしまう事があります。その際には強烈な痛み、しびれが出てしまい、場合によっては短時間で麻痺、膀胱直腸障害が出てしまうため疑われる際には早期に再手術を行います。
頻度としては0.9%
硬膜損傷
硬膜というのは脳、脳幹、延髄、脊髄、馬尾神経を包んでいる膜のことです。上の手術写真で写っているものですね。文字通り結構硬いので容易には破れませんが、長期に圧迫されていると菲薄化したり、黄色靭帯などとの癒着が激しいと黄色靭帯を切除する際に損傷する可能性があります。損傷した場合は7−0ナイロン糸(肉眼で見ることが難しいほど細い糸)などでしっかり縫合します。
損傷すると硬膜の中にある脳脊髄液と言われる液体が漏れ出てしまいます。脳脊髄液は大脳の脈絡叢で生成されます。もし、この脳脊髄液が漏れると頭痛、吐き気、めまいなどの症状が出ます。ただ、この症状は損傷部分をしっかり縫合していれば2.3日ベット上で安静にしながらブドウ糖の点滴をしていると改善します。
頻度としては2.1%
深部静脈血栓症
最近ではよく「エコノミークラス症候群」という名前で聞くことが多い病気です。災害時の車中泊をされている方に多い事で注目されていますが、実は手術中も起きる可能性があります。(どんな手術でも起こりえます。)
足に流れる血液はふくらはぎの筋肉の収縮などにより心臓に帰っていきます。しかし、手術では筋弛緩剤などを使用するため、筋肉の収縮が弱まります。というか全身麻酔で寝ているため、意図的に体を動かす事自体ほぼ不可能です。つまり、手術中は足に流れた血液が心臓に帰りにくく、その場に留まるため、血管の中で血液が固まり、血栓を作ってしまう可能性があるのです。実はそうならないためにも手術の際はフットポンプのようものでふくらはぎを揉んで血液の帰りを良くするなど工夫を行いますが、完全に防ぐことは難しいです。
このように手術をするとリスクもあるため手術をすべき条件の時を除いては積極的に手術を勧めていません。
以上が手術のリスクとなります。
手術を勧められた場合はもう一度よく考えて返事をしていただければと思います。
ではでは!
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