整形外科医の勉強日誌

若手整形外科医が勉強したことや日々思ったことを徒然に書いてます。ついでに誰かの為になれば幸いです。

椎体骨折 治療について〜手術〜

今回は腰椎椎体骨折の手術加療について説明しましょう。

手術加療

保存治療の記事でも説明しているように椎体骨折の保存治療での骨がつかない確率は30%程度あります。また神経障害の確率も文献によって差はありますが3%程度認められます。

下の写真は骨がついていないレントゲンになります。左が座った状態の写真、右が寝た状態での写真になります。骨がついていない所見をCleftまたAlligator signと言われます。

十分な保存加療を行っても骨がつかず、痛みが残存している・神経症状が出ている場合は手術の適応となります。

適応

実はこの「十分な保存加療」というのが施設によって見解が分かれているため、実際には手術の適応は個々の施設によって異なるというのが現状です。そのため、ここに書いていることは私個人の見解と考えて下さい。

私は以下の項目が手術の適応と考えています。

4〜6週間の保存加療を行っても痛みが強い場合。(Visual Analogue Scale 50以上)

・骨癒合が得られにくい合併症がある

骨癒合が得られにくい合併症とはステロイド内服の既往、Parkinson病、他椎体骨折の既往(特に隣接椎体や2つ以上すでに折れている場合)、ASH(強直性脊椎骨増殖症)、Split型の骨折(椎体が前後に分かれている、真ん中が極端に凹むような形の骨折)等です。

もちろん上記の条件があっても骨癒合が得られる可能性は十二分にあります。が、2週間経って骨がつきにくそうであれば、通常の4週よりも早期に保存加療から手術加療へ移行する必要があります。

注)Visual Analogue Scaleは痛みの数値です。0が全く痛くない、100が死ぬほど痛いです。

術式

手術方法は大きく分けて2つに分けられます。BKPまたは椎体固定術の2つです。

個別に説明していきましょう。

Balloon Kyphoplasty(BKP)

経皮的後弯矯正術とも言われます。

この手術は潰れた椎体に袋を入れ、それを膨らませることで椎体を持ち上げ、それを支えるようにセメントを挿入する方法です。

特徴はなんと言っても「傷が小さい」事と「手術時間が短い」事です。さらに追加すると「潰れた椎体を整復できる」(完全に元には戻せません)、「椎体の不安定性を即時に改善できる」事です。

傷は1cm程度のものが2つで、手術時間は30〜40分で終わります。傷が小さいため、術後の創部痛がほとんどなく、即座に椎体の不安定性が解消されるため、翌日には歩けるようになります。

凄く良い治療ではありますが、一方で適応がかなり厳しくなっています。

  1. 原発骨粗鬆症による1椎体の急性期脊椎圧迫骨折または転移性椎体腫瘍
  2. 第10胸椎〜第5腰椎の椎体(術者が死体での訓練トレーニングを積めばこれに限らない)
  3. 十分な保存加療によっても疼痛が改善されない症例(発症4-6週以降)
  4. Xp、CTにてCleft形成を認める
  5. 椎体後壁骨折がない

上記が基本となります。ただ、実際は骨粗鬆症の患者で5の条件を満たす事の方が少ないと感じています。そのため、多少後壁骨折があっても行われているのが実情です。

術後の成績も

  • 疼痛:Visual Analog Scale(VAS) 術前76⇨術後19
  • 椎体の潰れ:術前54%⇨術後平均77%

”金村在哲ら:バルーン椎体形成術による瘍痛対策、骨粗霧症治療 voL12 no.3 181−186、2013”

とかなり良好な成績が得られます。

ただし、やはり合併症もあります。以下のものが代表的なものになります。

椎体外へのセメント漏出 10%

セメントを無理やり注入したり、椎体の辺縁に骨折線があると椎体の外にセメントが漏れることがあります。特に椎体後壁の骨折があると脊柱管にセメントが漏れるリスクがあり、脊柱管には脊髄や馬尾神経が通っているため、神経症状が出る危険があります。

新規の隣接椎体骨折 10〜20%

元々、骨が弱い事が原因で骨折しています。その隣の骨も弱いため、セメントを入れすぎたりすると隣の骨がセメントに負けて骨折する可能性があります。

椎体固定術

基本戦略は以下の図のようになります。

つまり、BKPでは対応できない症例に対し、行う術式となります。

具体的には以下のようなものになります。

  • 「骨折部の骨癒合が完成して変形治癒してしまった症例」
  • 「椎体終板や後壁があきらかに損傷しておりセメントの漏出が懸念される症例」
  • 「椎体内ではなく椎間板レベルに不安定性を有する症例」
  • アリゲーターマウス型と称されるように偽関節部が過矯正される例(前縦靭帯の破断が疑われる)」
  • 「DISHよる椎体架橋の途中で偽関節となってしまった症例」
  • 「後湾変形に対し広範囲にわたる変形矯正が必要と判断される症例」などである.
なお、神経症状があってもBKPの椎体固定効果により神経症状が改善する例もあるため、神経症状⇨除圧術+固定術ではないです。
 
固定方法にも様々あり以下のものが主なものとなっています。

in situ固定

脊柱管内の除圧は全く行わず、後方から固定を行うのみの方法です。除圧は行いませんが、神経症状は骨折部の不安定性が要因との報告もあり、固定するだけで神経症状が改善している報告もあります。

椎体形成術+固定術 (除圧なし)
 
椎体形成術とはBKPのように袋で椎体を持ち上げるようなことはせず、椎体のCleftの中にCPC(陶器のようなもの)や顆粒人工骨を入れる手技です。さらに固定術を行うことで上記以上の安定性を得る方法です。

Posterior Vertebrat Column Resection

背中側から椎体摘出後に人工椎体(ケージ)を用いて脊柱を再建する術式です。変形を最も矯正できる反面、侵襲も大変大きく、輸血が必要となります。また人工椎体を挿入する際に神経を損傷(または意図的に切断する必要がある)可能性があります。

前方固定術

この術式は実は古くから行われていました。

しかし、横隔膜を切開する胸腔外アプローチまたは胸腔内アプローチは高齢者に対する手術侵襲度が高いこと、手術自体の難易度ともに高いために敬遠され、それが上記に上げるような後方手術(背中からの手術)の発展へとつながった経緯があります。

しかし、最近はExpandableケージを用いた新しい手術手技が開発され、後方手術よりも低侵襲に前方手術が施行できるようになり再び見直され始めています。ただ、それでもやはり術者の高い技量が必要であることは変わりなく、たまに医療事故などのニュースを見ることはあります。

固定術はアプローチの違いや侵襲が大きいこともあり、合併症も多岐に渡ります。

最も起こりうる合併症はもちろん出血、感染ですが、さらに一般的なものは固定のために挿入したScrewが緩むことです。元々弱い骨にScrewを打つのですから固定力はそれほど強いものではありません。(砂場にネジを打ち込むようなもの)

またScrewの向き、長さを間違えると椎体の前にある大動脈を損傷する可能性や脊柱管内にScrewが入ってしまった場合は神経症状が出る可能性もあります。

 

合併症なども考えるとやはりしっかりとした保存加療を行い、手術が必要とならないようにすることが最も大事だと考えます。

以上が手術加療の説明になります。

 

今後は腰痛疾患以外も上げていければと思います。

ではでは!!!

 

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椎体骨折 治療について〜保存治療〜

今回は腰椎椎体骨折の治療について説明します。

椎体骨折の治療の目標は

 短期:疾痛コントロールとADL改善

 中期:椎体変形抑制と骨癒合

 長期:脆弱性骨折の連鎖の抑制,すなわち二次予防

となります。

長期治療というのはもちろん骨粗鬆症の治療となってくるため、ここでは短・中期の治療について説明します。

椎体骨折も手術をしない保存治療と手術治療がありますのでまず保存治療から説明していきましょう。

保存治療

まずは痛みを取ることから始めます。

除痛には様々な方法があり、薬物療法、安静療法、装具療法などがあります。

個別に説明していきましょう

薬物療法

NSAIDsロキソニン、セレコックス、ボルタレンロルカムなど)

一般的な痛み止めになります。ただし、これで痛みを完全に取ることは難しいです。どちらかというと座薬(ボルタレン座薬など)を定期的に使いつつ、その間をこの飲み薬で抑える感じです。

ただ、胃腸が荒れるといった副作用があるため、大量投与は避けた方が控えた方がいいです。

トラマドール/アセトアミノフェン(トラムセット)

アセトアミノフェンという大脳に作用し、痛みを感じにくくさせる痛み止めとトラマドールとい非麻薬性鎮痛剤という麻薬の次に痛みを抑える効果が強い薬の合剤です。

痛みを取るとういうことに関しては麻薬以外では最も強いんじゃないかと思います。が、副作用も多く、嘔気・眠気・便秘などがよく挙げられます。このうち嘔気があると食事が取れなくなるため、吐き気止めを必ず併用する必要があります。

以上のことを踏まえて私は痛みが強い患者に対してはトラムセット+座薬を処方することが多いです。さらに痛みが続く時は以下の薬物も開始します。

カルシトニン製剤(カルシトニン)

実はこの薬は骨粗鬆症の薬になります。カルシトニンというのは甲状腺から分泌されるホルモンであり、骨を壊す細胞である破骨細胞(人は常に自分で古い骨を壊して新しい骨を作っています。骨代謝と言います。)に作用することで骨が溶けだすのを抑えます。さらに中枢神経系に作用し、骨粗鬆症性の疼痛(椎体骨折など)を抑えることがわかっています。アメリカのガイドラインでは勧められている薬物です。

PTH製剤(フォルテオ)

こちらも骨粗鬆症の薬になります。PTH(テリパリチド)というのは副甲状腺から分泌されるホルモンになります。本来PTHは上記のカルシトニンと異なり、破骨細胞の働きを上げます。どんどん骨が壊れていきそうですが、断続的に途切れ途切れで副甲状腺ホルモンを投与し、一時的にのみ副甲状腺ホルモンの濃度を高めると、その逆に骨形成が促進されることがわかっています。簡単に言うと毎日注射すると新しい骨が出来ることで強い骨にするのが目的です。実は骨折後に使用すると骨が早くつくこともわかっています。理由は様々言われていますが、何故か椎体骨折の疼痛も抑えてくれるとの報告も多いです。

すごくいい薬ではありますが制限もあります。「骨粗鬆症以外に適応がない」「生涯で約2年間しか使えない」さらに一番のネックは「毎日自分で注射をする」ことです。とは言っても、痛みも取れるし、骨粗鬆症があるなら積極的に使用してもいいと私は考えます。

安静療法・装具療法

実は安静の是非、固定方法(ギプス、硬性装具、簡易コルセットなど)の選択やその固定期間に関する統一された見解はなく、各施設あるいは医師の裁量に任されていることが多いです。

(そのため、ここに書いていることも私個人の見解によるものと考えてください。)

これは2011年の日整会において日本整形外科学会脊椎脊髄病委員会の先生方が他施設共同研究をされた結果によるところが大きいかと思います。その内容をすごく簡単にまとめると

①3週間のベット上安静(ベットの上で動かない)後、少し固めの装具を9週間つけながら動く

②1ヶ月ギブス固定(めちゃ硬い)、1ヶ月少し固めの装具、1ヶ月既製品の装具で最初から動く

③既製品(柔らかい)の装具だけで動く。ただし、装具は3ヶ月着用。

の3つに分けて骨つくまで期間、骨がどれだけ潰れるか、さらに骨がつかない確率はどうかなどを調べています。

結果は①は骨がつくまでの期間が少し長いが、骨は潰れにくい。ただし、それでも骨はある程度つぶれてしまう。①〜③の骨がつかない確率は同じ。30%程度が骨が着いていない・・・。

(詳しく知りたい人は参考文献6を読んでみてください。)

以上のことを考えると骨がつく確率が同じなら潰れない①が一番いいんじゃないかと思いますが、高齢者が3週間もベット上安静となると筋力がかなり落ちてしまい(廃用症候群)、その後歩けるようになる・家での生活に戻るまでに長期間のリハビリを要します。

そのため、私が主に行っている治療は

⑴薬物加療で動ける範囲の痛みの人はコルセットを着用し、自宅で動きながら生活をする。

⑵薬物加療では動けない人は入院し、寝返りで痛みが出ない(2週間くらい)はベットの角度を食事の時以外は30度とし、寝返りが出来るようになればコルセットを使いながら筋力を回復するリハビリを行う。

さらにコルセットは受傷当初は以下のどちらかを使用しています。

テーラー型ブレイス

ジュエット型ブレイス

受傷して2ヶ月ほどで骨がついているかどうかを判断し、骨がついてきていれば1ヶ月間もう少し柔らかいダーメンコルセットに変更します。

ただ、4週間の経過で骨がつきそうにない症例(強直性脊椎骨増殖症の境目や既存隣接椎体骨折がある、Parkinson病やステロイド内服の既往、Split typeの骨折などなど様々あります。)では早期に手術を行います。

また上記以外にも8週間保存治療を行い、レントゲン、CTで骨がついておらず痛みが持続している場合には手術を行います。

ただし、骨がついていなくても痛みが余り無いと言われる方もおられるので「骨がついていない=手術」ではありません

以上が保存療法となります。

70%の人は保存治療で治療可能ですが、早期に手術が必要な症例もあるため1〜2週間おきに受診を勧め、レントゲンで骨のつき具合を確認してくれる病院を受診することを強く勧めます。

手術加療についてはまた記事にしますので。

ではでは!!!

 

 

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椎体骨折(骨粗鬆症性) 病態・症状

今回は腰の骨の骨折について説明しましょう。

 

もちろん、若い方でも交通事故や高所からの転落などで腰の骨が折れる事はありますが、今回は高齢者(骨粗鬆症)の骨折について説明しようと思います。

 

正常な椎体のBone modelと骨粗鬆症患者のBone modelです。

どちらが折れ易そうは一目瞭然だと思います。

さらに下のグラフを見てもらえば分かると思いますが、骨粗鬆症となると実は椎体骨折(胸椎、腰椎含む)の可能性が劇的に上がることが分かります。

赤が椎体骨折、黄色が大腿骨(足の付け根)、青が橈骨(手首)となっており、他の2つも年齢とともに増える骨折ですが、比較にならないのが分かります。

 

今後、骨粗鬆症については詳しく説明していく予定ですが、ここで簡単に説明しておきましょう。骨粗鬆症とは

WHOの骨粗鬆症の定義は

低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患

とありますが、簡単に言うと

若い頃に比べて骨の量が減り、さらに骨の質も悪いから骨が折れやすい状態にありますよ

という病気です。

椎体骨折

症状・病態など

ここでは若い方がなる外傷性の骨折(転落外傷などの高エネルギー外傷)は省いて説明します。

主な臨床症状は腰背部痛です。特に臥位から座位 あるいは立位などへの姿勢変換時に痛みが強く出ます。ただし、椎体内には脊髄、馬尾神経が通っているため(脊髄、馬尾神経についてはこちら神経症状が出ることもあります。

多くの高齢者の椎体骨折の原因は尻餅をつくこと、重たいものを持つことなど軽い怪我で起こります。

かつ、2/3程度の骨折では「痛いけど動けないほどじゃないな」というレベルの痛みで済む事があります。そのため骨が折れていてもギックリ腰かな?と病院に行かず、自宅で湿布など貼って生活されている方もおられ、これが椎体骨折は時に『いつの間にか骨折』とも言われる所以です。ただ、痛い時は本当に動けないレベルの痛みです。

70歳以上の方は急に腰が痛くなった場合はギックリ腰ではなく、まずは骨折を疑いましょう!

なお好発部位は胸腰椎移行部(第11胸椎~第2腰椎)であり、私が持つ症例では75%を占めていました。

骨が治癒した後も椎体の楔状化(前側のみが潰れる)や圧潰(全体が潰れる)など変形が残るため骨折が多発すると背骨全体が曲がったままとなります(後弯変形)。

すると筋疲労性・阻血性の慢性背部腹部臓器の圧迫(胃食道逆流現象などの消化管症状)、肺活量の低下抑うつなどの心理障害などが起こりQOL(quality of life)の低下が指摘されています。

以上のことからなるべく痛みが出ないようにし、さらに椎体の変形を作らず治すことが必要となります。

 

治療についてはまた後日アップさせていただこうかと思います。

ではでは!!

 

 

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五十肩(凍結肩)

今回は五十肩について説明しましょう。

こちらでも書いている通り、日本人は腰痛の次に肩痛の訴えが多いです。

実際に外来診療をしていても肩が痛いと来られる方は多いです。

その際、患者さんが良く言われる事が「私、五十肩なんですかね?」

五十肩というのは江戸時代に発行された狸諺集覧に

「凡,人五十歳ばかりの時,手腕,骨筋痛むこと有り,程すぐれば薬せずして癒ゆるものなり, 俗に之を五十腕とも五十肩ともいう」

と記載があり、昔から使われていた病名になります。

通俗的病名でもあったため、実は整形外科医の中でも解釈が曖昧です。

今回、私は整形外科の領域で原因不明の肩関節拘縮(肩関節の動きが悪くなる、動かすと痛い)の際に用いられる『frozen shoulder』という病気を五十肩として説明します。

五十肩

概念

主には40-60歳代にかけて発症することが多く、これが五十肩と言われる所以です。

有病率は2〜5%程度といわれています。(100人に2〜5人)

一般的には先行する夜間痛を特徴とし、徐々に関節可動域制限(肩が上がらないなど)が 生じるものの、およそ1-3年の経過で自然回復することが多いものになります。

原因は今の所はっきりしていませんが、後で述べる手術の際に関節包(関節を包んでいる膜)を切ることで症状が改善するため、関節包が硬くなることが原因ではないかと考えられています。

後、糖尿病の方は有病率が10〜20%と上記の有病率と比較すると高くなることがわかっています。

症状

急性期(reezing phase)

発症から10週〜36週くらいの期間

関節内に様々な理由(例えば急に肩をよく使うなど)炎症性変化が起こった状態。

初期の段階であり、夜間痛が特徴的睡眠障害を呈することが多い.

慢性期(frozen phase)

発症から4ヶ月〜12か月くらいの時期

関節包の肥厚と短縮による関節拘縮が主体の時期。

急性期と比べると痛みは軽くなっており、安静時には痛みがない事多いです。

ただし、肩関節の動きが悪くなり、無理に挙げようとすると痛みが出ます。

肩関節の動きが悪いので下の写真の右側のように肩甲骨を動かして腕を上げるのが特徴です。

回復期(thawing phase)

5か月〜26か月くらいの時期

固まっていた関節包が柔らかくなる時期で、ここまでくれば痛みはなく、正常に動かせます。

 

このように経過は長く、治るまでには早くても半年程度かかると思って頂けたらと思います。

(たまに、病院にくればすぐに治ると思われる方もおられるので・・・)

治療

基本的には保存加療(薬やリハビリ)による治療で治ります。

手術をする場合はどうしても可動域が改善せず、日常生活に支障をきたしている場合と考えてください。

保存療法

上記で述べている状態により治療方法は変わってきます。

急性期

「痛み」がメインとなるので痛みに対する治療が主となります。

薬物療法

NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)

ロキソニンボルタレン、セレコックス、ロルカムなどが挙げられます。これは局所の炎症を抑えることで痛みを取る薬のため、特に急性期には有効です。

トラマドール/アセトアミノフェン(トラムセット)

NSAIDs単独では疼痛が取れない場合はこちらを併用することがあります。また高齢者で腎機能不良の場合にはこちらのみを使用することがあります。

睡眠導入剤

ゾルピデムマイスリー)やブロチゾラムレンドルミン)、エチゾラムデパス)などをよく使用します。急性期には夜間痛がよく出るため、眠れないという訴えが多いです。眠れないと痛みが増す傾向にあるため、しっかり眠る事も除痛には大事です。

・注射療法

上記薬物療法では疼痛が取れない場合に使用します。

注射で入れる薬は「局所麻酔薬+ステロイド」が多いです。

局所麻酔薬は文字通り痛みを取る薬ですが、これは3時間程度しか効きません。ステロイドというのは炎症を取ってくれる薬です。ステロイドが効くまでは局所麻酔で痛みを取り、局所麻酔が切れる頃にはステロイドが効いているのが理想です。

ただ、ステロイドという薬は血糖値を上げたり、感染のリスクを上げたり、組織を脆くしたりと副作用も多いため、そう何度も行える治療ではありません。私は基本2回までとしています。

理学療法

この時期は無理に動かすと炎症が治まらないので、頑張って動かし過ぎるのは良くありません。

肩の動きが悪くなるのを予防する目的で下図のようなコッドマン体操程度が望ましいです。

慢性期

この時期になると痛みを取る事ではなく、肩の動きを良くする事が主な治療となります。

そのため、温熱療法(肩関節を温める)+運動療法理が主な治療となります。

急性期とは異なり、慢性期では痛みが出ても積極的に動かす事が必要となります。

しかし、自力で動かすには限界があるため、ここではやはり理学療法士さんなどの他動的な力を借りて動かす必要があります。自宅でも棒体操などで痛みがない腕の力を使い、動かす事を勧めます。

なお、運動療法で改善しない場合は手術を行う事が多いですが、施設によっては首から局所麻酔を行い、腕を麻痺させた状態で徒手的関節受動術(他動的に無理やり動かすことで関節包を破る)を行う場合もあります。

ただ、この手技は上手にやらないと骨折するリスクもあるためかなり難しいです。

手術療法

上記の保存療法を3ヶ月程度行っても全く良くならない症例に対しては手術を検討します。

手術は関節鏡で行います。

手術では関節包を切ります。特に下側の関節包が硬くなっていることが多いため、ここを切ることに重点を置いています。下の図では赤いラインの部分で切ります。

この手術をした後は麻酔下では肩の動きは改善します。しかし、麻酔が切れると手術による痛みが強く出ます。痛みで力が入ってしまうことでやはり動きは完全にはよくなりません。

そのため、手術後もやはり特に理学療法士による運動療法が重要となります。

手術とは「慢性期になって回復期に向かわないものを急性期の状態に戻す」ようなものと考えてもらうのが良いと思います。

なのでやはり手術が必要となる前にしっかり慢性期の段階で頑張って動かすことが重要と考えます。

 

以上、今回は五十肩について説明しました。

手術の合併症などまだまだ説明が足りない部分はあると思いますが、それは今後付け足せていけたらと思います。

ではでは!!

 

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腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアの手術のリスク、合併症

手術のリスク

腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアに限らず、手術には合併症の可能性があります。

某ドラマで「絶対失敗しません!」と言っている医師がいましたが、実際にそんな事を言う医師がいたらその人は信用しない方がいいです。

それよりも怖いくらいリスクを説明してくれる医師の方が信用できます。

では腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアの手術の合併症はどういったものがあるのか。

感染

脊柱管狭窄症に限らず、どんな手術でも感染のリスクはあります。整形外科では特に皮膚常在菌(黄色ブドウ球菌や連鎖球菌)の可能性があるため、術前からそれをターゲットにした抗生剤を投与します。

しかし、それでも術後感染を起こすことはあります。術後1〜2週での発熱や創部の腫脹・発赤・熱感があれば感染を疑います。感染していると傷が閉じないことに加えて、最悪髄膜炎などの可能性もあるため、早期に全身麻酔下で再手術を行い、しっかり洗浄する必要があります。

頻度としては1.1%

出血

腰部脊柱管狭窄症の手術では皮膚を切ることに加えて、少し骨を削る必要があります。皮下組織や筋肉からの出血はバイポーラと呼ばれる機械で出血部位を文字通り焼くことで止血し、骨からじわじわ出るものは骨蝋という粘土のようなもので骨の断端を塗ることで止血します。

実際、手術での出血量は10ml未満の事が多いです。

神経、血管損傷

手術では黄色靭帯を切除する際に神経の近くを操作する事になります。また長期に渡って神経が圧迫されているとその神経は周囲の組織と癒着していることがあり、神経損傷のリスクは0にすることは難しいです。しかし、そうならないように顕微鏡や内視鏡で小さいものを大きく見ることその癒着を慎重に剥がし神経損傷のリスクを極限まで減らしているのが現状です。

血管損傷は固定術を行う際に注意する必要があります。椎体(背骨)の前には大動脈や腸骨動脈といった大血管があるため、Screwが椎体の前まで出てしまうと血管損傷のリスクがあります。しかし、私は実際には見たことないです。

硬膜外血腫

これは先ほどの出血にも関わる合併症です。黄色靭帯などを切除してスペースを作ることで神経の圧迫を取りますが、この「スペースを作る」ことが問題となります。

出血するとやはり、狭いところよりも空間が大きいところに血液は溜まります。必ず血を外に出す管(ドレーン)を除圧によりできたスペースに入れておきますが、その管が詰まった場合にはスペースに血液が溜まり、その血液が神経を圧迫してしまう事があります。その際には強烈な痛み、しびれが出てしまい、場合によっては短時間で麻痺、膀胱直腸障害が出てしまうため疑われる際には早期に再手術を行います。

頻度としては0.9%

硬膜損傷

硬膜というのは脳、脳幹、延髄、脊髄、馬尾神経を包んでいる膜のことです。上の手術写真で写っているものですね。文字通り結構硬いので容易には破れませんが、長期に圧迫されていると菲薄化したり、黄色靭帯などとの癒着が激しいと黄色靭帯を切除する際に損傷する可能性があります。損傷した場合は7−0ナイロン糸(肉眼で見ることが難しいほど細い糸)などでしっかり縫合します。

損傷すると硬膜の中にある脳脊髄液と言われる液体が漏れ出てしまいます。脳脊髄液は大脳の脈絡叢で生成されます。もし、この脳脊髄液が漏れると頭痛、吐き気、めまいなどの症状が出ます。ただ、この症状は損傷部分をしっかり縫合していれば2.3日ベット上で安静にしながらブドウ糖の点滴をしていると改善します。

頻度としては2.1%

深部静脈血栓症

最近ではよく「エコノミークラス症候群」という名前で聞くことが多い病気です。災害時の車中泊をされている方に多い事で注目されていますが、実は手術中も起きる可能性があります。(どんな手術でも起こりえます。)

足に流れる血液はふくらはぎの筋肉の収縮などにより心臓に帰っていきます。しかし、手術では筋弛緩剤などを使用するため、筋肉の収縮が弱まります。というか全身麻酔で寝ているため、意図的に体を動かす事自体ほぼ不可能です。つまり、手術中は足に流れた血液が心臓に帰りにくく、その場に留まるため、血管の中で血液が固まり、血栓を作ってしまう可能性があるのです。実はそうならないためにも手術の際はフットポンプのようものでふくらはぎを揉んで血液の帰りを良くするなど工夫を行いますが、完全に防ぐことは難しいです。

 

このように手術をするとリスクもあるため手術をすべき条件の時を除いては積極的に手術を勧めていません。

 

以上が手術のリスクとなります。

手術を勧められた場合はもう一度よく考えて返事をしていただければと思います。

 

ではでは!

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いきなり腰が痛い!足が痛い!ヘルニア?手術って何するの??

今回は腰椎椎間板ヘルニアの手術加療について説明しましょう。

保存加療の記事でも書いた通り、腰椎椎間板ヘルニアで手術する方は2〜3割程度です。

基本的には手術をしなくても改善する人が多いため、あまり積極的に手術を勧めることはないです。

ではどういった人が手術をするのか?

①高度の運動麻痺、膀胱直腸障害がある症例

②保存治療で改善しない高度な疼痛や軽度麻痺が持続する症例

③早期社会復帰を希望する場合(例えばスポーツ選手とか)

①以外は手術の絶対適応ではないのです。

偶に患者さんでもとにかく手術をすればすぐに良くなる!と思ってすぐにでも手術をしてくれと外来に来られる方がおられますが、手術には合併症のリスクがありますから、避けられる手術は避けるべきです。

では手術の方法について説明していきましょう。

髄核摘出術(後方摘出術)

腰椎椎間板ヘルニアの手術の中で最も一般的で最も良く行われている手術です。

特に下の写真の様に片側にヘルニアが出ていることが多いため、ヘルニアが出ている側の椎弓を切除し、神経を避けながら椎間板を取る方法(LOVE法)が行われることが多いです。

(参考文献1よりお借りしました。)

この方法とほぼ同じアプローチで行うものの、傷が小さいものが内視鏡下髄核摘出術(MED)となります。

顕微鏡と内視鏡の術後成績にはあまり差がないと思われます。

一部文献では内視鏡の方が合併症が少なく、小切開で視野がしっかり確保できるとの話もありますが、椎間板の前方に位置する動静脈損傷などのリスクは内視鏡の方が高いと思われます。

どちらも一長一短なのその施設が慣れている方法がどちらかで手術方法が決まると考えて頂いた方がいいかと思います。

ただし、下の写真の様にヘルニアが中央部に大きく出ている場合は腰部脊柱管狭窄症で行われる様な椎弓形成術に準じた方法で行い、しっかり神経の除圧を行う必要があると私は考えます。その場合も顕微鏡下・内視鏡での手術がありますがこちらも施設で慣れている方法で行われる事を勧めます。

経皮的髄核摘出術(PED)

この手術は上記の髄核摘出術(全身麻酔)と異なり、ヘルニアとなっている髄核を摘出することを目的とするのではなく、椎間板内圧の低下させヘルニアを引っ込ませる事を目的としていることに特徴があります。

また局所麻酔で行うという点でも異なっています。

何故局所麻酔かというと内視鏡の筒を背骨の真後ろから入れるのではなく、斜めから入れていきます。その際に神経根の本当にすぐ近くを通るため、神経根損傷のリスクがあります。術中に下肢痛が出れば神経が近くにあるサインとなります。そのサインを確認するためには患者さんの意識がないとわからないためです。(ただ、少し眠くなる薬を使う事はあります。)

さらに上記の髄核摘出術と異なり、後方支持組織(脊柱起立筋や極間靭帯、椎弓など)を温存することができるため、筋力の低下がほとんどなく、早期社会復帰が可能となります。特に早期の復帰を望むスポーツ選手に行われることがあります。

ただし、やはり後方摘出術と異なり、ヘルニアが取りきれなかったり、椎間板内の除圧不足による再発などのリスクが出てきます。

またこの術式の最も悲しい点が全ての椎間板ヘルニアで行えるわけではないという事です。L5/Sのヘルニアでは腸骨があるため、そもそも内視鏡を挿入する事が出来ない場合が多いです。

レーザー椎間板蒸散術

この手術も上記PEDと同様に椎間板ヘルニアをとる事が目的ではなく、椎間板内圧を下げる事を目的として行います。

ただし、椎間板線維輪や軟骨終板の著しい炭化により、椎間板全体への障害や残っている正常な椎間板も傷めるとの報告もあります。

そのため、この手術は「保険適応外」となってます。

私が今まで渡り歩いた施設では機材がないため、実際に見た事はありません。

 

以上が主な手術方法となります。

なお、椎間板の変性が著しい場合や高度な不安定性を要する、あるいはヘルニアの再発例などでは後方椎体間固定術を追加で行う事もあります。

 

ただ、どの手術にも言える事ですが

椎間板ヘルニアは再発する可能性がある』

10~30%くらいで再発するといわれています。

この事は念頭に入れながら手術を受けてください。手術をすれば大丈夫と勝手に安心して主治医の指示を待たずにコルセットを取ったり、重労働に復帰することがないようお願いします。

 

ではでは!!

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いきなり腰が痛い!足が痛い!ヘルニア?治療ってどうするの?

今回は腰椎椎間板ヘルニアの治療方法について説明していきましょう。

もちろん治療方法には手術をしない保存加療と手術加療があり、椎間板ヘルニアの多くは保存加療で治ることが多いです。

日常の診療では約7−8割の人は保存加療で改善している印象です。

では保存加療から説明していきましょう。

保存加療

手術をしない治療方法としては以下の物があります。

薬物療法

装具療法

注射療法

運動療法

個別に説明していきましょう。

薬物療法

腰部脊柱管狭窄症と似たような治療になりますが、一つ大きな違いがあります。

症状の項目でも説明したように腰痛や下肢痛といった「痛み」が強いことです。

そのため、主な治療は「痛み」をとることです。

痛みをとるために主に以下順番で薬を処方し、経過を診ることが多いです。

①NSAIDsロキソニン、セレコックス)

本当に一般的で整形外科ではよく使われる痛み止めです。これは炎症を取る薬となっているので局所によく効くのが売りです。

これと同様の効果がある薬としてボルタレン座薬などの座薬を処方する事が多いです。座薬の方が効果が強いためです。

プレガバリン(リリカ)

これは神経細胞の過剰興奮を抑えることにより疼痛、痺れを抑えてくれます。副作用で眠気が出る方もいますが、ヘルニアの場合は疼痛で寝れていないことも多いため、最初から100mg/日(最小量は25mg)から始める事が多いです。最大300mg/日ですが、ここまでの量を飲むまでに他の治療に移行します。

トラマドール/アセトアミノフェン(トラムセット)

これはトラマドール(非麻薬性鎮痛剤)とアセトアミノフェンという薬の合剤になります。飲み薬ではこれが一番強いです。ただ、その分副作用も強いため、少ない量からはじめ、徐々に内服量を増やします。また副作用を抑える薬も同時に処方します。これを飲んでも抑えられない痛みはブロック注射や手術を勧めます。

装具療法

装具は薬物療法と並行してほとんどの方に使用して頂きます。

長軸方向へのストレスを減らす事が痛みを取るためには重要になるため、コルセットで体幹を支えてもらう事はとても有用です。

マックスベルト(https://www.sigmax-med.jp/medical/products?syllabary=m)でも有用なんですが、やはり患者自身専用のダーメンコルセットの方が効果があります。

ダーメンコルセットというのは下の写真のようなものです。これは患者さんの体に合わせて採型するため、患者さん専用のものとなります。

http://www.itouseikei.com/sports/supporter03/index.htmlから写真をお借りしました。)

注射療法

主に行う注射はトリガーポイント注射と神経根ブロックの2つです。

○トリガーポイント注射

これは腰痛があまりにも強い時に行います。腰椎椎間板ヘルニアの腰痛の機序で説明している傍脊柱起立筋などの疼痛に対し行うと効果があります。

つまり、神経の痛みなどを取るというよりは筋肉や靭帯による疼痛を取ることが目的となります。

私は局所麻酔に加えてノイロトロピンという薬を混ぜて使用しています。このノイロトロピンという薬は生体内に備わっている痛みを抑える神経の働きを高める作用に加えて、末梢の血流を改善する効果があります。

ただ、残念な事にこの注射は効果がそれほど続きません。

○神経根ブロック

これは主に下肢痛に対して行います。

局所麻酔に加えてステロイドを注射することで神経の炎症を取り、疼痛を改善させます。ただし、ヘルニアが小さくなるわけではないため再度痛みが出ることがあります。その場合は手術を勧めています。

運動療法

これは体の柔軟性や体幹の筋力を鍛えることが治療の目的となります。

しかし、発症したばかりの急性期には基本的に適応外となります。

亜急性期(受傷2週間程度)から慢性期に入った段階で行います。

①ストレッチ

まずは軟部組織(主にHamstring:太ももの裏)の柔軟性を鍛えることと、股関節の可動域を改善することを行います。

②Stabilization program

腹筋や背筋といった体幹を鍛えるトレーニングです。痛みを取るというよりは今後ヘルニアを再発する可能性を下げるためのトレーニングになります。

腰椎椎間板ヘルニアは手術しても手術しなくても30%の確率で再発する可能性があります。体幹の筋力が上がると椎間板へのストレスが軽減するため、再発のリスクが下がります。

 

以上が手術をしない保存加療となります。

 

ではでは!!

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